劇伴作家としてBGMの発注を受ける時、大体は発注書の文章をもとにイチから音楽を作っていくのだが、今回は最初に映像があってそこに音楽を付けていく発注内容だった。
映像先で音楽を付けていく場合、個人的にやりやすい場合とやりにくい場合がある(あくまで作曲がやりやすい、やりにくいであり、良い映像、悪い映像という意味ではありません)。前者は「映像の内容がはっきりしており、そのシーンを説明する音楽」が求められる場合だ。これは映像そのものがピアノスケッチと言ってもいいくらい、最初から設計図が出来ているのでとても簡単。後者は「映像が抽象的で、世界観や雰囲気の補助としての音楽」が求められる場合だ。これは作曲の選択肢が無限大であることに加えて、そもそも抽象的なムードを「ドレミ」だけで作っていくことが難しい。ちょっと不協和音をやりすぎるとホラースコアになってしまうし、かといってぼんやりとした音楽をずっと続けても、その映像がただ退屈なものになってしまう。
今回の映像は抽象的でありつつも、その映像である程度のインパクトを与えなければいけないものだったので、オーケストラの楽器とシネマティックな音ネタが5:5になるような楽曲を制作した。このやり方のイイ所は、楽器の音だけでは濃すぎて表現出来ない抽象的な世界観を表現しやすいところにある。例えば映像に何かが映り、それを強調したい時、楽器で「ジャーン!」とかやってしまうとカートゥーン的な表現になってしまう。(”フリ”や”タメ”を使うと多少和らぐは映像は待ってくれない)そんな時、SFXで「ホワーッ・・・」とか「シャーン・・・」とかやると、世界観を保ったまま映像にスポットライトを当てることが出来る。
学生の頃は頭が硬かったので、オーケストラの曲はオーケストラの楽器だけで作曲をしてしまいがちだったのだが、今では空気感を作るためにTexture系の音ネタを当たり前のように貼るし、低音にはBass Drumを使わずにSub系のHitを使うなど、サウンドデザインと譜面を書く音楽の垣根を超えて楽曲を作っている。(まぁ、今どきみんながやってることですが…)もちろん「ドレミ」だけで作る音楽のパワーが必要な時は、そのような楽曲を提案する。しかし現代の劇伴作家は持っているサンプルをパレットのように使い、多彩なサウンドを作っていくことが求められるので、今後も柔らかい頭で制作のアイデアを出していきたい。