初トライアルで得た「聴き方」 | クリエイターの悶絶生活編集部

初トライアルで得た「聴き方」

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歌手イメージ :
/ その他
制作ジャンル :
/ インスト
発売条件 :
/ 劇伴/ライブ
工程 :
/ 制作全般について

今回、グローブエンターブレインズのトライアルで初挑戦させて頂きました。楽曲は、若い子たちのライブ最初を飾るOverture。それにふさわしい、若さと希望にあふれた曲にできればとポジティブな取っ掛かりから制作を始めましたが、いざ書き進めてみると、締切にひやひやしつつの防戦一方。自分ではそこそこ自信があった筈のオーケストラ系ですが、同時に、自分が今後まだまだ学ばなきゃいけない課題も明確に実感したトライアルとなりました。

一番強く感じたのが、「エンジニアリング的な視点の重要性」です。無論、楽曲のメロやコード構成が、採用に当たり重要な位置を占めているのは言うまでもありませんが、特にインスト作家としてやっていく場合には、一層そうした「サウンド全体のバランス感覚にとりわけ敏感な耳を育てねばならない」という事を痛感させられました。

私自身、作曲、特にオーケストレーションを学ぶにあたって基本的にはクラシック曲のスコアをとにかく沢山読み込む、オケの中で実際に演奏する機会を持つという、割と感覚にリンクした独修をしてきたので、楽器法やセクションの構造にはそれほど苦心した事がありませんでした。しかし、同時にそれは裏を返せば無意識に(悪い言い方をすれば無神経に)楽器を積み上げて、実際にDAW上で鳴る音のバランスまで繊細に耳を使えてない状態でもありました。

いざ、完成したものを提出してチェック頂くと、「肝心なところの中低域、特に弦の厚み、リッチさ、ゴージャスさが足りないかな」とコメントを頂き。その箇所を自分で改めて確認してみて「弾いてはいるんだけどなァ・・・でも確かに物足りない気がする」と、言われて初めて気づく鈍感さ。。
しかし、そうした部分に細やかな耳を使えてなかったが故に、それが「オーケストレーションの構造自体に根差す問題か、それとも単にその楽器のミックスバランスが上手くないのが原因か」の判断が中々つかず・・・。実際、作曲よりもバランス取りに使った制作時間の方が振り返ってみれば多かったかもしれません。

また、いったんアレンジまで組み上げてしまった楽曲で「ここの箇所コードがありきたりすぎて味気ない」ともコメント頂き、メロが不自然にならないように、リハモして前後の流れも含めアレンジし直しもあったり。楽曲の骨格を作る段階で、時間に追われているからといって安易な発想をしてしまったまま進めると後々引き返せず、表現したいものを書いてるはずが気が付けばいつの間にか「上手くいくよう何とかつじつまを合わせる作業をしている」になってしまう危うさも思い知らされました。

そうこうして、大友さんに色々アドバイスを頂きながら悩みつつも完成から提出頂いた楽曲、残念ながら採用には至らないものの惜しいところまでは行けたとのことで、悔しくもあり、でも得たものも多かったために後悔は全くありませんでした。

よくエンジニア専門の方は「MIXに正解はない」と仰る事が多いですが、料理に例えるならば「美味しい料理」と「イマイチな料理」ってのは確実に存在するわけで。「じゃあ、美味しい料理って具体的に何?」という問題には、案件がクローズしてからもここ暫くずっと頭を悩ませています。
グローブエンターブレインズでトライアルさせて頂く以前、私は主に個人作家として活動してきました。そうした時に作っていたものはどうだったか・・・、改めて振り返ってみると、決してマズいものではなかったものの「大味なもの」だったんだろうと思い至り。家庭料理としては、大味の方が寧ろ美味しいと感じる方が多いかもしれませんが、やはりプロの現場で、そうした味付けに留まっていてはダメなのだと痛感しました。

それ以降、MIX部分も改めてエンジニア本業の方に曲を聴く時のポイントを訊いて学び直しつつ、トラックの構造だけでなくサウンド全体のバランスにも注意して曲を聴くよう習慣づけ、それを実践の曲作りにまた還元していく、そうしたサイクルが自身の中で出来つつあり、それだけでも得たものはとても多かったと今では実感しています。
願わくば、こうして得た武器を使って今後の案件で勝ちを採っていけたら、と思っています。昨今は社会全体てんやわんやで、音楽業界も大変な状態なのでしばらくはじっと勉強しつつ耐えてという生活が続きそうですが・・・、逆に作家にとってはもどかしくはありますけど、今が勉強のチャンスなのかもしれません。

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