まずはじめに、楽曲というものはリリースされた時から作家の手を離れ、パフォーマンスをするアーティストとリスナーで作られる「世界」になると考えています。裏方である作家はあくまで裏方、その影が見えない楽曲、つまり「世界」が理想だと私は思っています。これから裏話を綴っていくわけですが、その「世界」を壊さぬよう、慎重に進めていきたいと思います。
はじめは、私の初採用の時のお話になります。別のお仕事でお付き合いしていた現事務所の社長から、楽曲コンペのお誘いを頂いたのが始まりでした。当時私は、女性ボーカルとユニットを組んでおり、そこで作っていた楽曲ジャンルに近い案件を選び参加することを決めました。「採用されるはずない」という半信半疑、いや全て疑うくらいの気持ちで挑んだことを覚えています。
楽曲制作の順番として最も多いのが、曲が先にでき、そのあとに歌詞をつける「曲先」です。ところが、最初に挑んだ案件はなんと「詞先」。一般的に「詞先」は、ある程度A,B,サビなどのブロックが分かれており、完成したメロディーに合わせ言葉を調整していく、というものなのですが、なんとこの案件は言葉の変更・調整は一切不可、というハードルの高いものでした。更に、歌詞の作者は歌モノの作詞家ではなく小説家の方で、歌詞というよりかは、一つの短編小説のような構成になっていました。
まずぶち当たった壁は「文字数の多さ。」
そこで考えた解決策は二つ。
1.ラップにして言葉を詰め込む。
2.構成を多く(サビを二つ作るなど)し、飽きさせない展開にする。
まず1に関しては、アーティストイメージを合わないので却下。よって2しか選択肢は残されていませんでした。
不安だらけのスタートでしたが、まず助けられたのが歌詞の世界観の深さ。「詞先」は初めてでしたが、歌詞を読むにたびにメロディが出てくる出てくる。言葉に誘われて、引っ張られて、そんなイメージです。自分が天才ではないかと勘違いした瞬間でもあります。中には、歌にするにはとても強く激しい言葉が入っていましたが、極力メロディの弱いところに配置するよう心がけ、なんとか完成に漕ぎ着けました。その後、尊敬する大先輩のアレンジャーさんの編曲のお力もあり、小説を基に作られた戯曲のような作品が出来上がりました。
これが私の最初の挑戦にして、初採用を頂いた時のお話です。もうだいぶ前のことですので、苦しかったことは忘れ、素敵な思い出だけが蘇る幸せな文章になりました。
以上のように、初めは得意なジャンルから挑戦するのがいいかもしれません。そして「詞先」は競争率が低めと聞きます。歌詞に、メロディがハマった時の爽快感、達成感は「詞先」だけでしか味わえないものだと思います。