ここまでいくつか案件に参加した中で、とにかく案件に合わせることの必要性を強く痛感していたことから、自分の感性とうまく噛み合わないことに悩んでいました。
そんな中で今回の案件は、大サビ不要の90秒で締切が長く、曲調が得意な「切ない」系だったこともあり、多少気楽に作れるかな、と思い参加したような雰囲気でした。しかし、これもまた案件の求める「切なさ」と自分の好む「切なさ」がズレていたことに気づき、作業は難航を極めました。
自分にとっての「切なさ」とは、add9や順次進行で作る、淡くどこかスカッとするようなイメージでした。しかし、今回の案件の過去の採用曲やリファレンスを聴くと、明らかにそういう雰囲気ではなく、M7やドミナント系の「男臭い切なさ」というものを強く求められているように感じました。そのため、普段は発注書を見てサビがある程度目処が立ちそうになってから参加表明をしているのですが、今回は途中で全てを作り直しました。
サビはリフレインするフレーズで、コードもサブドミのM7から始めた王道進行でテンションは一切入れない、アレンジもほとんど映える音はギターのみと、曲の9割以上を分かりやすさのみを重視して作りましたが、担当者からは思いの外高評価をいただきました。結果的に採用に至るパワーは無かったようですが、今までで1番採用に近いところまで辿り着いたようでもありました。正直なところ、なんとなく古臭くてあまり好きでないというか、「ゾワっとする曲ができてしまった」という感覚だったので、とても驚きました。
これまでは、レベルの高い人は高度な理論知識とかを用いて作曲しているのかな、というように思っていました。「メロがいい」も、「秀逸なメロ」を意味しているのだと思っていました。しかし、曲自体はドシンプルな多少クサいくらいのメロで分かりやすくさえあれば、「案件に寄せる技術」と「編曲・打込み・エンジニア技術」でメロを“良さげに見せる”ことの方が、実は遥かに重要なのではないか…?というように感じた、そんな案件でした。やっぱりプロの現場は色々と難しいですね・・・。