トライアルを始めた作家さんにとって、何と言っても最初のハードルは、いきなり始まる実依頼への対応力ということになります。今までペースもクオリティも自分自身で自由に(楽に?)組み立てていたのが、急にリアルな依頼概要に沿って制作していくというのは、ぬるま湯で生活していた時とは一変して、想定外の激アツ熱湯風呂に入る様な「これがプロの温度か!」と感じるのではないでしょうか?そして徐々に、指定の音域内でメロを作るのがとてつもなく高いハードルに思えてしまい、応募時はキャッチーなメロディ制作に自信があった筈なのに、徐々に迫ってくる〆切に焦っていくのです。
何とか作業を進めて、ようやく1番のメロディが出来た時点で、客観的にメロディのクオリティを判断するより「この環境ではよく出来た」という自分への満足感によって、とりあえず提出してくる作家さんが多い気がしてます。本当はこの「とりあえず」がよくないのですが、そんな作家さんに発生するメロの修正は、アレンジも進めてしまった(=イメージを固めてしまった)せいで戻れなくなってしまい、枯れた大地に花を咲かせる様な苦行となっていきます。参加する直前まで思っていた「詳しい発注書があれば、自分はもっと才能を発揮出来る」という自信とは、真逆の現実を味わう事になり、これが最初の試練となるのです。
昔の作曲家さんは下積み(=ストック)も100や200はあった方が多かった印象ですが、今の作家さんは相対的に、そして全面的にスキルの経験不足を感じます。弱肉強食のプロの世界で戦っていくには、すぐにでも活動の温度感を熱湯近くまで上げておいて欲しいと思います。その為にも、様々な条件(音域や〆切や制作する方向性等)をご自身で設定した上で、乱造していくのが大事かと思います。ある程度の下積みがないと、折角事務所に所属出来たとしても最初からつまずき、打ち所も悪くなってしまうとスムーズにテイクオフ出来なくなってしまうからです。そうならない様に、願ってやみません。